実存と構造 (集英社新書)

実存と構造 (集英社新書)

実存という概念は人間を袋小路に追い込むことになる。
その袋小路から人はいかにして脱出し、前向きに生きることができるのか。
一つの答えが構造化である。
自分がかかえている問題を、神話的な繰り返しの構造の中に埋め込んでしまえば、悩んでいるのは自分一人ではないということが自覚される。
神々の時代から繰り返し、人間は同じことを重ねてきたのだ。
自分は英雄でもなければ、特別に悲惨な人間でもない。
語り継がれてきた物語や歌は、同じことを語ってきた。いま自分がかかえている問題は、そうした繰り返し構造のうちの、一つのバージョンにすぎない。
ワン・オブ・ゼムにすぎない。
そう考えれば、悩んでいるすべての人が、自分の仲間なり、もはや実存は、孤独という地獄から救済される。(p145-146)