民法改正を考える (岩波新書)

民法改正を考える (岩波新書)

既に述べたように、「民法」はいつの時代・どの社会にも存在する。しかし、私たちはその民法を「民法典」という形で持っている。これは必ずしも当然のことではない。本書を通じて述べてきたように、「民法典」を「法典中の法典」、特別な法典と位置づけるという考え方は、自由で平等な市民の関係を基礎に社会を創る、という思想を体現するものであった。
それゆえ、「民法典を持つ」ということは、このような仕方で「社会を構成する」ということを意味する。繰り返すが、これは必ずしも当然のことではない。家族のことは「家族法典」で、取引のことは「経済法典」で、団体のことは「団体法典」で、不動産のことは「不動産法典」で、あるいは消費者のことは「消費者法典」で、という考え方はありえないわけではない。
しかし、「民法典を持つ」ということは、こうした領域別の特殊性の中に閉じこもり、関係者による利益調整によってルールを定めるのではなく、「市民citoyen」が、「共通の関心事res publica」として社会の骨格を定めること、「市民的権利droits civilsの法」として「社会を構成する」ことを意味する。
民法改正において問われるべき根本問題は、「民法典を持つ」ことを改めて意識的に選び取るか否かという点にある。(p187)